サステナビリティ推進担当役員インタビュー
Interview with Officer in Charge of Sustainability
「環境という新しい価値軸」
を育てる

執行役員
サステナビリティ推進および
グループ品質保証担当
金子 友昭
世界的な資源価格高騰を好機として
2021年に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書」が採択され、気候変動に対する「人間の影響」は疑う余地がない、という厳しい認識が共有されたことを踏まえ、世界各国はCO2の削減、いわゆる「脱炭素社会」への実現に向けた取り組みを続けてきました。
しかし2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻により石油や鉱物資源などの価格が急騰し、世界は“エネルギー危機”“資源危機”ともいえる状況に直面しています。脱炭素への取り組みを一時的に緩め、現状の危機に対応すべきであるとの論調も見受けられるようになりました。
私自身は、「たとえ厳しいエネルギー環境が続こうとも脱炭素への挑戦を止めてはならない、むしろチャンスである」と考えています。そもそも、石油などの化石エネルギーが再生可能エネルギーよりも価格が安いために置き換えが進まない、つまり持続可能性が高まらないという状態が続いてきました。「必要は発明の母」ということわざのとおり、資源価格の高騰は、脱石油の流れを一挙に加速させると確信しています。
そう確信したのは、ステークホルダーの環境についての意識が大きく変化しているからで、特に私が強く感じるのは、若者たちの意識の変化です。環境負荷の少ない製品を評価し、企業の開発姿勢に厳しい目を注ぎ、私生活でも環境に貢献できるムダのないライフスタイルを志向しています。
企業の「価値軸」も変わってきました。従来の製品開発は、コスト削減を中心に取り組まれ、その派生効果として環境改善にも貢献するという流れでした。例えば、缶胴の薄肉化(ゲージダウン)や軽量化などです。しかし気候変動がクローズアップされた今は「環境という新しい価値軸」が着実に形を成し始めているのです。円安やウクライナ侵攻など、さまざまな要因によって資材価格が高騰し、従来は高価格な素材として認識されていたリサイクル材も競争力が出てきました。これを契機として、環境に貢献できる製品は価格も含めて議論できる状況となってきています。「環境という新しい価値軸」が真剣に検討されるようになってきたのです。
あえて中長期目標を厳しく設定した理由
東洋製罐グループは、2019年に策定した中長期環境目標「Eco Action Plan 2030」を、2021年に大幅な上方修正、つまりより厳しい数値目標へと修正しました。2050年のカーボンニュートラルへの取り組みを明確にしたうえで、事業活動でのCO2排出量を2030年に2019年度比50%(Scope1、2)、またサプライチェーンでのCO2排出量を同じく30%(Scope3)、それぞれ削減することを目標としました。
あえて目標を上方修正したのは、「動かないことの悪」への強い危機感があったからです。目標の上方修正は、厳しい取り組みとなるだけに事業活動の観点ではリスク要因とみなす人もいます。しかし私たちは、これはリスクではなく、攻めの目標だと考えました。
高い目標を設定してその実現に努力を続けることで、その姿に共感し、一緒に取り組んでくれるパートナーが必ず現れます。「共感する仲間とスクラムを組む」のも私たちの環境貢献活動の主な任務の一つなのです。
代表取締役社長の大塚一男は、「東洋製罐グループは、地球の資源を使ってビジネスをしてきたが、その恩恵の何割かは地球に返すべきである」と環境関連の課題に強い意志と姿勢で臨むことを明らかにしています。また環境問題は、人類として解決しなければならない課題であり、それ故に人類の英知を結集したソリューションを必ず生み出せると確信しています。グリーンボンドなど資金面での制度の枠組みもできてきました。
そのうえで継続的に諦めずに取り組み続け、視野を外に向けていろいろな情報に接し、いろいろな人たちと連携する努力を続ければ、「Eco Action Plan 2030」の目標は必ずや達成できると考えています。
環境負荷低減のプラットフォームと協働も
そのための取り組みのいくつかをご紹介します。まずバリューチェーン全体での取り組みを促し、強化するために、環境負荷を低減するためのプラットフォームづくりに着手しています。材料から製品までの全工程において、素材変換や加工技術の確立、そのための機械設備の対応など、東洋製罐グループの総合力を社会に提供します。
例えば、次世代環境配慮型飲料缶システムの実用化です。これは「aTULCコンパクトライン」といい、設備が簡略で省スペース、また水を使用しないため環境負荷を低減できる当社独自の製缶システムです。このシステムを直接充填ラインと接続することで、缶の輸送を不要とし、輸送時のCO2排出量を削減できます。また輸送がなくなることにより、空缶流通時の強度を考慮しなくてよくなるため、当社が開発する極限軽量缶の実用化も実現します。つまり、本システムは輸送時のCO2排出量に加え、アルミ使用量の削減も可能とする画期的なシステムなのです。
また、外部組織とも協働し、自らの取り組みを発信することで連携の機会を探索していきます。
例えば、サーキュラー・エコノミーを推進する英国エレン・マッカーサー財団に容器メーカーとして初めて加盟し、世界の環境推進団体が具体的にどのような考えを持って目標を実現しようとしているのかを学ぶとともに、私たち自身の貢献策も発信しています。
そして、業界の枠を超えてプラスチック資源の再利用技術を確立するための組織、「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)※1」に参加したり、「アールプラスジャパン※2」に出資したりしています。
これらの取り組みは、最先端ともいえる環境改善技術や、そのための着想を私たちに与え、さらに連携する企業の輪を広げる流れを生み出してくれるでしょう。
環境意識の高まりに応えて
東洋製罐グループで働いている人たちにも、一人の消費者としての暮らしがあります。例えば、従業員の子どもたちが授業で環境問題を学べば、「お父さんやお母さんの会社は缶やPETボトルを作っているよね」という会話も生まれます。そういった暮らしの中での出来事が、従業員一人ひとりの環境問題や技術改善に取り組む大きなモチベーションになっており、私は、そのような意識こそが世界を変えるのだと思っています。それは工場における改善提案に環境関連のテーマが増えていることからも気づかされます。
最近、営業部門からは、「東洋製罐さんの環境の“売り”はなんですか、と聞かれることが多くなりました」との声があがっています。それこそ私たちが高い目標を掲げて進めてきた取り組みの成果です。私たちはお取引先や社会のニーズに応え、着実に環境への取り組みを進めてまいります。

- ※1クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス:地球規模の新たな課題である海洋プラスチックごみ問題の解決に向け、プラスチック製品の持続可能な使用や代替素材の開発・導入を推進するとともに、官民連携で、イノベーションを加速化するために設立された団体
- ※2アールプラスジャパン:持続可能な社会の実現に向け、プラスチック課題解決に貢献すべく使用済みプラスチックの再資源化事業に取り組む共同出資会社