TCFDおよびTNFDの提言に基づく統合的な情報開示

東洋製罐グループは、「常に新しい価値を創造し、持続可能な社会の実現を希求して、人類の幸福に貢献します。」という経営理念に基づき、「東洋製罐グループサステナビリティ憲章」を策定し、グループ全体でサステナビリティ経営を推進しています。また、中期的な環境目標である「Eco Action Plan 2030」を掲げ、環境負荷の低減に資する各種取り組みを実施しています。気候変動への取り組みに関しては、2021年に「気候関連財務情報開示タスクフォース」(以下「TCFD」)の提言への賛同を表明し、自然資本・生物多様性の保全に関しては、2024年度より「自然関連財務情報開示タスクフォース」(以下「TNFD」)に基づく取り組みを開始しました。本ページではTCFDおよびTNFDの推奨する情報開示フレームワークに則って、東洋製罐グループの気候変動と自然資本・生物多様性に対する取り組みを報告します。

ガバナンス

東洋製罐グループは、気候変動および自然資本・生物多様性の課題への対応を含むグループ全体のサステナビリティ関連の活動を統括するグループサステナビリティ委員会を設置しており、同委員会はグループリスク・コンプライアンス委員会と共に、重要委員会の1つと位置づけられています。本委員会は、サステナビリティ経営推進に関する事項についての協議を行う場であり、目標・計画に対する進捗管理に加え、社会的・国際的情勢や法規制の動向、外部環境の変化を踏まえた計画の見直し、新規施策の検討を実施しています。気候変動および自然資本・生物多様性に関連する目標・計画である「Eco Action Plan 2030」の進捗管理についてもこの委員会で行われます。また、東洋製罐グループは国や地域におけるさまざまな社会的課題を認識し、東洋製罐グループの製品・サービスをご利用いただいているお客さま、お取引先、地域社会など、ステークホルダーの皆さまと対話、協働し、事業を通じて社会課題の解決に取り組んでいます。

※図は左右にスクロールできます

戦略:気候変動関連

IEA(国際エネルギー機関)等が公表する気候変動シナリオを参照し、1.5~2℃、4℃の各シナリオを選択しました。気候変動影響が中長期の期間の中で顕在化していく性質のものであるとの認識により、時間軸としては2030年における気候変動の影響を分析しています。
分析対象事業:包装容器事業、エンジニアリング・充填・物流事業、鋼板関連事業、機能材料関連事業

シナリオ分析

移行リスク

気候変動政策が導入される1.5~2℃シナリオにおいて、炭素税賦課による操業コストと石化原料や鋼材などの調達コストで400億円ほどのコスト上昇リスクを特定しました。対応案の検討では、「Eco Action Plan 2030」のGHG削減と枯渇性資源削減の目標達成が、負の影響を60%以上削減することを確認しました。
また、東洋製罐グループでは将来的な炭素税賦課や原料価格高騰を見据え、シャドープライスを適用したインターナルカーボンプライシング制度(ICP)を導入しています。炭素価格を1万円/t-CO2に設定し、省エネルギー設備や再生可能エネルギー導入などのGHG削減投資に活用し、カーボンニュートラル社会の実現に向けたロードマップの達成に向けて取り組んでいきます。

物理的リスク

気象変化にともない、4℃シナリオにおいて、水ストレスの高い地域で渇水のリスクが高まることや異常気象の激甚化による洪水被災リスクが高まることで、150億円以上の大きな影響を与えうることを確認しました。渇水や洪水被災も含む水のリスクに関する総合マネジメント・システムを構築(2024年より運用開始)し、これらの負の影響の軽減に努めていきます。

機会

1.5~2℃シナリオにおいて、環境配慮型製品およびEV・PHEV向けの電池用部材の需要増加に関する200億円以上の機会を特定しました。来たるべき需要の増加の見極めと、生産 体制強化等の準備を進め、これらの機会を着実に東洋製罐グループの成長につなげていけるよう努めます。

シナリオ分析結果一覧

移行リスク

※表は左右にスクロールできます

重要なリスク・機会の項目 時間軸 東洋製罐グループへの財務影響 東洋製罐グループの対応
政策・
規制
炭素税負担

中期

新たな炭素税の導入で操業コスト増加

  • 2030年までに事業活動のGHG排出量▲50%(2019年度比)
電力単価変動

短期

電力単価の増加による操業コスト増加

  • 太陽光発電システムの導入
  • ICPによる省エネ投資加速
バージンプラスチックを使用した容器包装へのプラスチック税課税

中期

新たな課税の導入で税賦課分を単価から差し引いた場合の売上減少

  • 全包装容器製品をリサイクル・リユース可能に転換
  • 再生材使用比率の向上
飲料ボトルへの再生プラスチック使用義務化

中期

再生プラスチックの含有割合引き上げのためのコスト増加

  • 2030年までにプラスチック製品における化石資源使用量▲40%(2013年度比)
原材料価格 原油価格変動による石化原料価格変動

短期

原油需要の増減による石化原料調達コスト変動

  • 化石資源の使用量削減
炭素税による原材料価格変動

中期

新たな炭素税の導入で石化原料、鋼材、アルミニウム、原紙、ガラスの調達コスト増加

  • 化石資源の使用量削減
  • バイオマス材料の活用
  • 低炭素鋼材・アルミの使用
グリーンスチール普及の影響

中期

グリーンスチール普及による鋼材調達コストの増加

  • 缶のゲージダウンによる鋼材使用量の削減

物理的リスク

※表は左右にスクロールできます

重要なリスク・機会の項目 時間軸 東洋製罐グループへの財務影響 東洋製罐グループの対応
気象変化 渇水による取水停止

中期

水ストレスの高い地域において生産活動が制限される

  • 水リスクの総合マネジメント・システムを構築し、リスク低減を推進
気温上昇にともなう空調への影響

中期

夏季空調電力使用量増加により操業コスト増加

  • 太陽光発電システムの導入
  • 省エネ、ヒートポンプ活用
異常気象の激甚化 被災にともなう物損・逸失利益

短期

洪水リスクの上昇による物損・逸失利益発生の増加

  • 水リスクの総合マネジメント・システムを構築し、リスク低減を推進

機会

※表は左右にスクロールできます

重要なリスク・機会の項目 時間軸 東洋製罐グループへの財務影響 東洋製罐グループの対応
消費行動の変化 環境配慮型製品の需要増加

中期

環境配慮型製品の売上増加

  • 環境配慮型製品のラインナップ拡充と拡販
  • 成長率の高い環境配慮型製品への投資加速
殺虫剤の需要増加

中期

夏場の平均気温上昇により殺虫剤需要が増加しエアゾール充填事業の売上増加

  • 殺虫剤充填事業の対応力を適宜強化
低炭素商品の拡大 EV・PHEVの普及

長期

EV・PHEVで使用される電池用部材の需要が増加し、その売上が増加する

  • EV・PHEVで使用される電池用部材の増産体制構築

【時間軸に関して】短期:現在から2~3年以内、中期:2~3年後から2030年頃まで、長期:2030年頃以降

営業利益への影響(2030年度1.5~2℃シナリオ)

営業利益への影響(2030年度1.5~2℃シナリオ)

営業利益への影響(2030年度4℃シナリオ)

営業利益への影響(2030年度4℃シナリオ)

水リスクの評価

気候変動の物理リスクの中で、渇水リスク、洪水被災リスクが東洋製罐グループの経営に大きな影響を与えることが確認されました。そのため、世界資源研究所(World Resources Institute、WRI)にて作成された水リスク評価ツールAqueductと、自然資本金融連盟(Natural Capital Finance Alliance、NCFA)にて作成されたENCORE※を用いて、国内外のグループ主要生産拠点93拠点を対象としたリスク評価を行いました。その結果、優先拠点に抽出された拠点は、以下の6拠点でした。
東洋製罐グループは、今回の評価で抽出されたリスクの高い拠点を中心に水リスクの最小化を図るとともに、各地域の水課題の解決に貢献します。

水資源リスク 海外2拠点
規制評判リスク 海外1拠点
水害リスク 国内3拠点  海外2拠点
※ 各リスクに対して抽出された拠点には、重複している拠点が含まれています

戦略:自然資本・生物多様性

TNFD提言に基づく取り組みとして、東洋製罐グループの全生産拠点および事業領域に関しては、金属とプラスチックの包装容器事業について自然資本・生物多様性への依存・影響の評価を実施しました。

拠点所在地に起因する環境リスクの評価

東洋製罐グループは、全生産拠点を対象として、BRFを用い、所在地に由来する自然資本・生物多様性リスクの評価を実施しました。その結果、複数のリスク要因が特定されました。物理的リスクの中では、拠点所在地に起因する「熱帯低気圧(台風)」や「汚染」に関するスコアが特に高く、東洋製罐グループとして重点的に対策を講じるべきリスク要因と位置づけています。
「熱帯低気圧(台風)」のリスクについては、風雨による土地・建物等の損壊や洪水による浸水、停電など、さまざまな形で拠点ならびにバリューチェーン全体へ影響を及ぼす可能性がありま す。このため、一時的または長期的な生産拠点の閉鎖や収益損失につながるリスクが想定されます。また、所在地に由来する「汚染」のリスクに関しては、汚染された土地・水・大気が製品の品質低下や従業員の健康被害を引き起こす可能性があります。
東洋製罐グループは、これらのリスクの影響を最小限に抑えるため、各拠点におけるリスク低減策の検討・実施を進めていきます。

BRFで特定した熱帯低気圧(台風)のリスクが高い東アジア、東南アジアの拠点図

BRFで特定した熱帯低気圧(台風)のリスクが高い東アジア、東南アジアの拠点図

BRFで特定した汚染リスクが高い東アジア、東南アジアのグループ拠点図

BRFで特定した汚染リスクが高い東アジア、東南アジアのグループ拠点図
  • BRF(Biodiversity Risk Filter)は、WWF(世界自然保護基金)が2023年1月 世界経済フォーラム(ダボス会議)において発表した、自社のビジネスやサプライチェーンの生物多様性に関連するリスクのスクリーニングと優先順位付けを行うためのオンラインツール
出典:WWF Risk Filter Suite, riskfilter.org

事業内容と自然資本・生物多様性との関連

東洋製罐グループの主だった事業内容の内、金属とプラスチックの包装容器事業が自然資本に与える影響について、ENCOREを用いて評価しました。
その結果、金属とプラスチックの包装容器事業においては、「水や土壌への有害汚染物質の排出」が自然環境へ与える影響の中で最も大きいことが明らかになりました。加えて、「外乱 (騒音、光など)」や「温室効果ガスの排出」なども、東洋製罐グループの事業における影響要因として特定されています。東洋製罐グループでは、これらのリスク低減を図るため、各拠点の土地・建物に対する防災対策や、廃棄物の流出防止措置などを計画的に実施しています。これにより、自然災害や事故発生時における資産および周辺環境への損害の範囲・程度を抑制し、復旧に要する時間や費用の低減を目指しています。また、こうした事前的なリスク管理の強化は、生産物賠償責任保険や損害賠償保険の保険料の増加抑制にもつながるものと考えています。

ENCOREで特定した東洋製罐グループ包装容器事業と自然資本・生物多様性の関連性

※表は左右にスクロールできます

TNFDにおける自然変化要因 圧力 包装容器事業
金属製品
(アルミ缶など)
プラスチック製品
(PETボトルなど)
評価結果
資源の利用/補完 水使用量 M L
その他の生物資源採取(魚、木材など) N/A N/A
その他の生物資源採取 N/A N/A
陸上、淡水、海洋の利用変化 土地利用面積 L L
淡水利用面積 N/A N/A
海底使用面積 N/A N/A
気候変動 温室効果ガスの排出 L M
温室効果ガス以外の大気汚染物質の排出 L M
固形廃棄物の発生と放出 水や土壌への有害汚染物質の排出 VH VH
水と土壌への栄養塩汚染物質の排出 N/A N/A
固形廃棄物の発生と放出 L M
外乱(騒音、光など) M M
侵略的外来種の侵入/除去 外来種の侵入 N/A N/A
  • L:Low(低影響) M:Middle(中影響) VH:Very High(高影響) N/A:影響なし

リスク管理

東洋製罐グループ全体のリスクマネジメントについては、グループリスク・コンプライアンス委員会を通して、状況を確認し、改善および予防措置を講じています。また、グループ各社はそれぞれの推進体制のもとでリスク管理方針や基本計画の策定、会社全体のリスクマネジメント状況の取りまとめ等を行っています。気候変動および自然資本・生物多様性を含む環境リスクについてもグループサステナビリティ委員会で協議され、東洋製罐グループの重要リスクの一つとしてグループリスク・コンプライアンス委員会で取り扱われています。

指標と目標

GHG削減量

東洋製罐グループは、2050年長期目標としてGHG排出量を大幅に削減し、カーボンニュートラルを実現することを目指しています。そのため、「Eco Action Plan 2030」において、2030年におけるGHG排出量の削減目標を右記のとおり定めています。
なお、本目標は国際的なイニシアチブであるSBT(Science Based Targets)の新基準「1.5℃目標」の認定を取得しています。

事業活動でのGHG排出量の推移(Scope1、2)50%削減 2019年度比 サプライチェーンでのGHG排出量の推移(Scope3)30%削減 2019年度比 SCIENCE BASED TARGETS

事業活動でのGHG排出量の推移(Scope1、2)

事業活動でのGHG排出量の推移(Scope1、2)のグラフ
  • 一部拠点のデータを追加・修正したことにともない、過年度の数値を遡及修正しました

サプライチェーンでのGHG排出量(2024年度)

サプライチェーンでのGHG排出量(2024年度)のグラフ

Eco Action Plan 2030の進捗と評価

評価指標:★★★目標を達成できた ★★目標に対してわずかに未達成 取り組みが不十分

※表は左右にスクロールできます

2030年度目標(Eco Action Plan 2030) 2024年度実績 評価

脱炭素社会

  • 事業活動でのGHG排出量(Scope1、2)を50%削減(2019年度比)
  • 事業活動でのGHG 排出量(Scope1、2)は、基準年2019 年度比22.9%の削減となり、目標を達成できました。引き続き設備更新をはじめとする各種省エネルギー活動、再生可能エネルギーの活用を継続、推進します。

★★★

  • サプライチェーンでのGHG排出量(Scope3)を30%削減(2019年度比)
  • サプライチェーン上流および下流でのGHG 排出量(Scope3)は、エンジニアリング事業における生産減に伴うカテゴリー11 の減少などの影響もあり、基準年2019 年度比18.0%の削減となりました。リサイクル材の採用や軽量化をはじめとする各種資源循環の取り組みをさらに強化していきます。

★★★

資源循環社会

  • 枯渇性資源※1の使用量を30%削減(2013年度比)
  • 枯渇性資源使用量は基準年2013 年度比19.0%削減となり、目標は達成できませんでした。容器を主体とした軽量化や工程での歩留まり向上(不良率低減)などの取り組みをさらに推進していきます。
  • プラスチック製品の化石資源の使用量は基準年2013 年度比23.8%の削減となりましたが、目標は達成できませんでした。PET ボトルの原料に使用済みボトルからの再生材を利用することや、プラスチック製容器に植物由来樹脂を利用するなど化石資源の削減を進めていきます。

★★

  • プラスチック製品については化石資源※2の使用量を40%削減(2013年度比)
    • プラスチック製品の軽量化、素材転換により15%削減(2013年度比)
    • 再生材・植物由来樹脂の利用率を30%向上(2013年度比)
  • 全ての容器包装製品をリサイクル可能またはリユース可能に

自然共生社会

  • 生物多様性の保全を推進
    • 事業活動における取水量を売上高原単位で前年度比1%改善
    • 事業拠点の水リスク評価とリスク低減に向けた取り組みを推進
  • 事業活動における取水量は、前年度比8.6%の増加となり、目標は達成できませんでした。効率の良い利用を推進していきます。

★★

  • 外部コミュニケーション活動の推進
    • 海洋プラスチック問題解決に向けた対応(散乱防止)と情報公開
  • 事業所からの樹脂ペレット漏出防止徹底を徹底するとともに、さまざまなプラスチックリサイクルの取り組みも推進し、Webサイト等で情報の開示を行っています。

★★★

  • 枯渇性資源:自然のプロセスにより、人間などの利用速度以上には補給されない天然資源
  • 化石資源:石油・天然ガスなど

Environmental(環境)